2008/12/18 Thursday

不可触領域 / 半村 良

Filed under: 小説,  半村良 — taipeimonochrome @ 16:23

20081218.jpg本棚の奥の奥から引っ張り出してきた角川文庫の半村本の一冊。角川文庫の半村本といえば、隠微で怪しげな杉本画伯のジャケも魅力のひとつだったりする譯ですが、本作の、ビットマップ処理された人型にナマケモノをあしらったデザインはややおとなしめ。

まだ中学生のガキの頃に手にして以来、頻繁に讀み返した記憶はないものの、内容の細かいディテールまでかなり正確に覚えていたことにはチと吃驚、――とはいえ、一番の驚きは、トンデモなSF的な奇想を凝らしたアイディアが炸裂するなか、巧みな伏線を凝らして堅実なミステリの結構に仕上げてあるところでありまして、前半に奇妙な自殺事件という謎を開陳してシッカリと「真犯人」まで用意してあるところなど、ミステリとしてもなかなかの出来映えともいえる一冊です。

とはいえ、やはり本作一番の見所は、管理社会の恐怖や黒幕政治家の暗躍、さらには戦後高度経済成長の暗部といった、半村ワールドの特色ともいえる濃厚な昭和風味を通底させた背景にSF的奇想が炸裂するその結構の素晴らしさでありまして、冒頭、主人公となる男とフィアンセの庶民代表ともいえる二人を登場させ日常的風景を描きつつ、それが東京に戻る途中の山道で濃霧に襲われるあたりからは次第に次第に非現実的な物語世界へとスライドさせていく技巧は秀逸です。

怪しげな研究施設で見つかった自殺死体に、譯知った様子で接する関係者たち、――という陰謀を想起させる人物構図とは対照的に、そうした暗部の秘密を知るであろう人物たちが揃って「いい人」だったりして、それがまた後半のおぞましい展開をより際立たせている構成もいい。

自殺事件に使われた「トリック」は、本作の奇想を早くも明かしてしまうことで、アッサリと解き明かされるものの、それによってとある人物の個人的な犯罪であることと思わせつつ、それがまた後半、とあるゲス野郎の奸計も絡んでいたところが判明したりと、これがミステリであればやや大袈裟などんでん返しとして描いてしまうところカモしれません。

本作の奇想は、今讀むと、SF的でありながらもその怪しさゆえに何だか妙に香山滋チックであるように感じられるところも再讀ならではの発見で、半村伝奇小説的に典型的な物語の大きな広がりこそないものの、ミステリ風味を凝らした盤石の結構によってSF的な奇想とサスペンスを結実させた佳作、といえるのではないでしょうか。

本作は一時、ハルキ文庫で復刻されたものの、その後が續かないところは残念至極、最近半村本を復刊している河出あたりで再び出してくれないものかと期待してしまうのでありました。

2007/12/11 Tuesday

夢の底から来た男 / 半村 良

Filed under: 小説,  半村良 — taipeimonochrome @ 15:49

20071211.jpg先日讀んだ曽根圭介の「」の解説で大森望氏が本作を挙げていたところ、内容をスッカリ忘れてしまっていたので、本棚の奧から引っ張り出してきてみました。自分が持っているのは杉本畫伯のジャケ畫が素晴らし過ぎる角川文庫版で、収録作は、平凡で幸福な人生を満喫している男に忍び寄る狂氣が地獄を喚起する「夢の底から来た男」、ヒョンなことから奇妙な超能力に覺醒した男の半生をユーモアと悲哀を込めて描き出した秀作「錯覚屋繁昌記」、乱開発が進むド田舍を訪れた野郎たちが怪奇小説では定番のアレに襲われる「血霊」、ナル男の妄執が彼の死後トンデモな事態を引き起こす「自恋魔」、そしていかにも氏らしい通俗小説的な技法で奇妙な超能力を手に入れた男の青春を回顧する傑作「わが青春のE.S.P」の全五編。

表題作は、最初はごくごくフツーの会社でフツーに働いている男の日常が淡々と描かれていくのですけど、件の人物はどうやら夜毎惡い夢に魘されている樣子。さらには男の身の回りには奇妙なことがチラリチラリと起こり出して、――という話。「鼻」では、二つのパートが平行して描かれいき、その二つが交差した刹那に虚實が反転するという仕掛けが秀逸だった譯ですけど、本作にはこのような仕掛けはありません。

ある種、正當派ともいえる調子で描かれていく男の日常が次第に狂っていくというイヤ感が個人的にはツボで、夢に出てきた男がいよいよリアルで姿を見せるあたりから物語が加速していき、そこから意想外な事實が明かされていくという後半の展開に、ようやく「鼻」との共通項を見つけた次第です。今だとSFというよりはサイコホラーという括りでアピールしたほうが受け入れられそうな風格で、最後の悲壯な結末も含めて見事な一作ながら、現代だとやはり「虚」の側を表に描くという構成に仕掛けを凝らした「鼻」の方に魅力を感じる読者の方が多いような気がします。

「錯覚屋繁昌記」と「わが青春のE.S.P」はともに、市井人がヒョンなことから超能力を得ることになって、という物語で、いずれも長編傑作「産霊山秘録」や「岬一郎の抵抗」などにも通じるテーマが感じられます。

「錯覚屋繁昌記」は、ユーモアも交えて主人公の間拔けぶりとともに、超能力を得たとあればソレを使うならやはりアレだよね、というあたりを押さえたエピソードが描かれていきます。やがて國家の秘密組織が彼の能力に目をつけてという中盤の流れでも何處か惚けた風格はそのままに話が進められていくのですけど、ここでも市井人の友情や愛情を絡めて一級の通俗小説の愉しみを見せてくれるところが半村流。

後半のやや性急に感じられる展開は「妖星伝」のラストにも見られるようなものながら、寧ろディテールを書き込まないことで逆に主人公の悲哀が際だっているところが素晴らしく、無常觀溢れる幕引きもいい。

「わが青春のE.S.P」は、「錯覚屋」よりも物語の時間軸を長くとって、數々の印象的な登場人物と逸話を配して主人公の半生を描いていきます。主人公の人生が狂う時にたびたび出現する奇妙な太陽の存在も、これがSFだと思って讀んでいないと、何かの不幸の象徴だと素通りしてしまうほどのさりげなさに感じられてしまうのは、それだけ主人公の山あり谷ありの人生描写が見事であるからでありまして、このあたりの巧みさは秀逸です。

あらためて讀みかえして気がついたのは、半村小説にとって超能力はあくまで人間を描き出すための要となる素材に過ぎないということで、自分が當時も今も半村小説をこうも再讀してしまう所以はこのあたりにあるのカモ、と感じた次第です。

「自恋魔」はバカバカしさの炸裂した佳作で、イケメンの歌手のポスターを仕上げたものの、その寫眞にチョットばかりついている皺が氣に入らないと件のイケメン野郎はクレームの電話を入れてくるほどの大激怒。そのあと野郎は交通事故に遭ってしまうのですけど、その後に怪異が起こり出して、――という話。

これまた市井人がイケメン野郎の怨念にビクビクしてみせるところや、女が妙な理屈でその不安を払拭みせるあたりの男女の会話のやりとりなど、このあたりをさらりと書いてしまうところが面白い。

「血霊」も、乱開発が行われている田舍の景色に登場人物たちが何やかやと言っているうちに、日常の情景が次第にねじれていく展開がツボで、寫眞ネタでふいに怪異が現出するところから物語は思いもかけない方向へと轉がっていきます。怪奇小説では定番のネタに短編らしいオチを添えて幕とするところなど、やはり文体、構成と小粒なネタも逸品に仕上げてしまうその技法に注目でしょう。

こうして再讀するとほかの作品も無性にイッキ讀みしたくなってしまうところが半村小説の困ったところでありまして、本棚の奧からゴッソリと引っ張り出してきた角川文庫を前にどうしたものかと頭を抱えてしまいますよ(爆)。長編の復刻はボツボツと行われてはいるものの、短編集に關してもハルキ文庫あたりが出してくれないかなア、と期待してしまうのでありました。

2007/7/25 Wednesday

戸隠伝説 / 半村 良

Filed under: 小説,  半村良 — taipeimonochrome @ 20:00

20070725.jpg戸隠という伝奇小説としてはあまりに魅力的な土地を舞台に据えているゆえ、「黄金伝説」レベルの作品カモ、なんて大期待で讀み始めたのが大間違い、ノッケから内輪ネタにも轉びかねない、というか巻末の清水義範氏の解説を讀んでマンマ内輪ネタをうまく料理した内容であったことが分かってしまったところがアレながら、とにかく作家半村良をモデルにした作家のアシスタントが神々の戰いに卷き込まれるというのが物語のおおよその結構です。

前半は突然目の前に現れた美人といいカンジになって、半村風人情噺というよりは、こちらの背中がムズムズしてくるようなメロドラマが大展開されてしまうところでまたまた面食らってしまうのですけど、それでも普通人の日常生活から巧みに神話の世界へと流れていく仕掛けはやはり見事。

舞台を戸隠に移してからは、主人公のアシスタント君の記憶の底に眠っていた古代神のキャラが覚醒、神々の戰いへと雪崩れ込み物語はいよいよ盛り上がりを見せてい、……くかと思いきや、この神々の戰いというのが、双方、遮光器土偶と埴輪を使って戰いに挑むいうことでありますから、これを現代フウに言えば、要するに神レベルで紙相撲かはたまたロボコンで盛り上がるような展開は伝説シリーズとしてはアンマリです。

自らが体と体をぶつけ合って血まみれの戰いに挑む譯ではありませんから、何だか陣地に立って相手の出方を窺っている神々も暢氣なもので、その戦略たるや相手が人形をつくっている窯をブチ壊してしまえばいい、というある意味ルール違反も厭わないところは神というより犯罪者。

こんなかんじで、時折古代神へと覚醒した主人公とヒロインのちょっとしたお惚氣も絡めて神々の戰いが描かれていく譯ですけど、何もしろ主人公の名前がキララとあれば、やはり最近では竹本健治のアレを思い浮かべてしまうのはミステリマニアとしては致し方なく、讀んでいる間も終始この名前が出てくるたびに「御主人さまあ」なんて甲高い女声が頭の中に響いてしまったのも本作をめいっぱいに愉しめなかった理由の一つといえるカモしれません。

流石に神様の紙相撲で最後まで押しまくるのはマズいと作者も悟ったのか、最後の最後はガチンコ勝負に挑むものの、ここでも「まっすぐうしろに穗先を向けていた槍を、通り過ぎて少ししてから、ひょいと左へ動かしたのである」などというフェイント攻撃で決着してしまうし、最後は「ポキッ、と嫌な音がしたかと思うと、次の瞬間石馬はぐらりと右に傾いて倒れ」てジ・エンド。

「ひょい」だの「ポキッ」だのという脱力の擬音がクライマックスで用いられるというところにも本作のほのぼのテイストが感じられ、神々の戰いと聞いて「邪神世界」の派手派手しさをイメージしてしまうと肩すかしを喰らってしまいます。

そんな次第でありますから、「伝説」シリーズだからといって過度な期待はせず、前半では業界の内輪話をネタにした人情噺の風格を愉しみ、後半は戰いのハードさよりは、日本の神々のほのぼのとしたキャラと戰術の妙を堪能するのが吉、でしょう。

2006/9/19 Tuesday

ふるえて眠れない ホラーミステリー傑作選 / ミステリー文学資料館

20060919.jpg當に現代の怪奇幻想小説傑作選、平成版「異形の白昼」。

「幻の探偵雜誌」シリーズや「甦る推理雜誌」シリーズと趣を異にして、時代ミステリー、恋愛ミステリー、文芸ミステリーなど、どうにもそそらないネタばかりだった光文社文庫の「名作で読む推理小説史」シリーズですけど、本巻はホラーミステリー傑作選と題して、素晴らしい短篇が揃った當に「買い」の一册です。

収録作は妻を後輩に寢取られた男の怨念を幽靈譚として噂にデッチあげる源氏鶏太の「幽霊になった男」、相撲取りにロックオンされた小市民たちが夜の街を逃げ回る恐怖、筒井康隆「走る取的」、平凡な幸せの家庭に忍び寄る怪異と女の狂氣を描いた田中文雄「さすらい」、能登訛りのネチッこい語りが強烈な幻視を喚起する半村良「雀谷」、ロリコン野郎の忌まわしい過去が古地図によって甦る高橋克彦「緋い記憶」、年下君とのエロ拔き不倫に悶々とする男の、心のダークネスを描いた菊池秀行「墓碑銘」。

事故をきっけかに失踪した兄の行方が寿行センセっぽいオチで見事に決まる宮部みゆき「おたすけぶち」、妻の不倫相手をトンデモ魔術で驅逐した男が人を呪わば穴二つとなる朝松健「追ってくる」、洋ピン蝋人形館ツアーが意想外な展開を見せる井上雅彦「恐怖館主人」、そしてオカルトハンターによる幽霊屋敷の怪異を描いた倉阪鬼一郎の「黒い家」、呪われた落語家の一世一代の落語ショーがグロ滿點の結末を迎える怪作、飯野文彦「襲名」、そして我らが新悪魔主義のヒーロー、平山夢明氏の手になる鬼畜趣味滿點の傑作「他人事」の全十二編。

結構色々なところで讀んだことのある作品が竝んでいるんですけど、「走る取的」はひたすら相撲取りに追いかけられるという「激突」的展開だけで魅せる大傑作で、何度讀んでもその衝撃と笑撃は色褪せることがありません。

小さなバーで飮んでいた小市民が、店の隅っこにいた相撲取りを笑ったばかりに(本當は勘違い)ロックオンされてしまうというお話で、ものもいわず顎と腹を突き出した恰好でひいふういいながら追いかけてくる相撲レスラーの異樣さと恐ろしさはレブリミット。笑いと恐怖は紙一重ともいえる展開に腹を抱えながらも、行き場のない恐怖に背筋を凍らせてしまう一編でこれは名作、でしょう。

「さすらい」は以前とりあげた「甦る「幻影城」〈1〉新人賞傑作選」にも収録されていた一編で、二人の女性の狂氣が入り交じって恐ろしい悪夢を現出させるというオチが効いていて、ミステリ的な謎で讀者を引きよせつつ、狂氣と幻想によって幕引きとなる構成も素晴らしい。

「緋い記憶」も何処かで讀んだ記憶のある一編で、ムッツリのロリコン野郎が女の子の股を広げてペド節を炸裂させるところなど、鬱屈した心の闇とエロスが隱微な味を出している作品です。

友人から見せてもらった古地図を手にして青年時代の記憶を回想する主人公が、少しづつ自らの過去を語り出していくという構成が見事で、老人と住んでいる可愛い少女が好きでタマらないという気持を抱きつつ、体の方は商売女の婀娜っぽい魅力に負けてしまうという男の性をシッカリと描いているところがいい。幕引きは自らの妄想が現出させた異界とも幻想ともつかないあやしの世界へ主人公が歸っていくというもので、いかにも作者らしい美しさを湛えたラストも印象に残ります。

「おたすけぶち」は、その昔崖から車ごと落下した大事故の後行方不明となった兄を持つ妹がその事故現場を訪ねていくのですけど、そこで兄の名前を綴ったハンカチを發見、ハンカチの作り主を訪ねていくと果たしてそれは失踪していた兄だった、……という展開から癒し系っぽいお話に転じるのかと思いきや、ラストは寿行センセっぽい悪魔的な終わり方をするところがちょっと意外。

「追ってくる」は妻の浮気を誹る語り手が、相手の男を殺してやろうと日本各地から人殺しも可能なトンデモ魔術を大募集。インチキの紛い物ばかりがドシドシと送られてくる中、これはというホンモノに出會った男はその手引き書通りに大魔術を敢行、果たして男は期待通りに無慘な死に方をするものの、今度は自分がその魔術で呪われることとなって、……という話。

浮気男が妻とのエッチ寫眞を素人投稿誌に投じたりするというディテールがチープな味を出していて、中盤で作者の獨壇場とばかりに開陳される魔術の蘊蓄とのギャップがまた素晴らしい雰圍氣を出しています。

「襲名」は當に怪作の名前に相應しい作品で、古典落語を演じながら自らの出自と襲名にまつわる奇譚を語り出すという趣向です。肉体の變異を描き乍ら、自らの呪われた謂われが明らかにされていくという展開がいい。そして訪れるカタストロフから物語は一轉、ドタバタめいた脱力劇が理解不能の幕引きとなるB級ぶりも含めて、これまた拍手喝采の作品といえるでしょう。

そして「他人事」はまさにタイトルマンマに、事故で崖に車ごとぶら下がってしまった男と女がトンデモないことになってしまうというお話。助けてくれ、という絶叫に駆けつけてきた男はまさに他人事のようにネチっこい台詞で、瀕死の状態にある男と女をいたぶっていくのですけど、この會話がもう叫び出したくなるほどのイヤ感を釀し出しているところが最高。

悪魔的な問答が進むにつれて明らかにされていく男女の關係、そして男の正体、さらには車の外に放り出された娘の、男の言葉を介して語られる鬼畜的なディテールに到るまで、まさに短篇としての完成度が尋常ではありません。収録作の中、恐怖度という點ではまさに最強にして最兇の一編です。

という譯で捨て作なし、當にキワモノマニア、怪奇幻想小説マニアにはとっては「買い」の一册。因みに作品名をギッシリと竝べて異樣に括弧が多く感じられる解題を書かれているのは、ここ最近ミステリ村に向けて奇怪な毒電波を撒き散らしている某「困ったちゃん」から、年末のランキング祭に參加しなかったが爲に怠慢野郎と誹られてしまった笹川吉晴氏。

作品の選出のすべてを笹川氏が行われたのか今ひとつ判然としないんですけど、個人的にこのセレクトはナイス。當に、筒井康隆が編纂した怪奇小説アンソロジーの傑作「異形の白昼」の平成版ともいえる超弩級の作品がズラリと竝べられた本作、本屋に行けばおそらくはうずたかく積まれた島田御大の「光る鶴」の影に隠れてひっそりと置かれているかと思うんですけど、怪奇幻想小説のマニアであれば手に取る價値はあると思います。おすすめでしょう。

2005/7/1 Friday

およね平吉時穴道行 / 半村 良

Filed under: 小説,  半村良 — taipeimonochrome @ 21:36

つい先日取り上げた新城カズマの「サマー/タイム/トラベラー (1)」ですが、皆さんのレビューに目を通してみると、語り口がいつになくアツいです。

しかしこの作者がもしかしたら自分と同世代、いや下手をしたら自分より年上かもしれないというのは、「猫は勘定にいれません」のtake_14さんのレビューで知りましたよ。まさかキャリアが十年以上もあるベテランだったとは驚きです。

で、「The Spirit Of Gyoxay」のgyoxayさんも本作を取り上げていまして、特に「非日常的なSFという設定が拒否反応を起こすことなく、その日常の中にゆっくりと進行させていく」という指摘になるほど、と膝を打ったのでありました。と同時に、響子さんに却下されそうといいつつも、西澤保彦の「七回死んだ男」をタイムトラベルもののひとつとして挙げておられるところにニンマリしてしまった自分であります。

よし、次のネタはこれでいこう、と。題して「響子さんに却下されてしまったタイムトラベルもの」シリーズ、ということで、今日は半村良の短篇にして、タイムトラベルものの名作である本作を取り上げてみようと思います、……とえらく長い前置きですみません。

半村良でタイムトラベルものといえば、今だと「戦國自衞隊」が旬なんでしょうけど、やはりそこは切なさを伴った風格のある作品でないといけませんよ。そこで本作です。

写真のジャケは自分が持っている角川文庫版で、イラストは例によって杉本一文。ちょっと怖いかんじなんですけど、まあ、角川の半村シリーズの中ではまともな方です。

さて、物語の方は、江戸時代の戯作者山東京伝に興味を持っているコピーライターの私が、ふとしたきっかけでこれまた江戸時代の岡っ引き平吉の手になる舊い日記を手に入れます。
その日記にはおよねという女性にたいする恋慕が綴られてい、彼女がある日神隱しにあってしまったことが記されていた。そんなおり、コマーシャルに起用した人気歌手菊園京子がその日記の内容を知り盡くしていることに私は驚きます。
実は彼女こそが江戸時代に神隱しにあったおよねそのひとで、彼女は町屋敷跡にあった倉の穴(要するにタイムマシン)を拔けて現代にやってきた、というのです。およねが語る話から、私は平吉の日記に書かれていた内容を讀み解こうとして、……というかんじで物語は進みます。

およねがこちらに持ってきたもの、そして逆に現代から時穴を通して江戸に送ったものの二つがどのように過去と現在に影響を与えているのか、というのが明らかになっていくところ、そして現代に殘った京子の哀しい結末、さらには私と京子との意外な關係が最後にあきらかにされて、物語は終わります。
この纏め方がいかにも半村良らしいのですが、よくよく考えてみると、gyoxayさんが「サマー/タイム/トラベラー (1)」のレビューで指摘しておられた「非日常的なSFという設定が拒否反応を起こすことなく、その日常の中にゆっくりと進行させていく」っていうのは、當に半村良の作品に相通じる風格だと思うのですが如何でしょう。
本作も同樣で、物語のはじめはコピーライターの私の仕事と山東京伝のことが語られ、そこにすっとSF的な仕掛けが入り込んでくるという、このあたりの展開が本當に巧みなのです。

しかしアマゾンで見てみると、本作、角川文庫版も早川文庫版も絶版ですか!しかしそれでも古本屋で角川文庫版を見かけた方には是非手にとっていただきたいと思います。半村良のデビュー作「収穫」も収録されていて、どの短篇も本當に素晴らしいものばかり。タイムトラベルもの好きだったら満足できる古典的名品だと思います。

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